「遺言書を書こうと思っているけれど、改ざんや見つけてもらえないことが怖い……」
こんなお悩みをお持ちの方におすすめしたいのが、「自筆証書遺言書保管制度」です。
自筆証書遺言書保管制度は、遺言書を法務局において適切に保管・管理してもらえる制度のこと。近年では「終活」のひとつとして注目が集まっています。
結論からいいますと、遺言書保管制度はあまりお勧めしていません。
遺言書の紛失や改ざんを防ぐことができたり、法務局において形式的要件の確認を行ってもらうことができる、というメリットはありますが、しかしながら、遺言書の内容についての確認は行われないので、よほど自信がある人でない限り、司法書士などの専門家に相談するのがよいでしょう。
この記事では、自筆証書遺言書保管制度のメリット・デメリット、手続きの流れや注意点について解説しています。
新しく開始された遺言書の保管制度を知り、終活を考えるきっかけとしてみてください。
- 自筆証書遺言書保管制度を利用することで、遺言書の紛失・改ざんを防ぐことができる
- 保管申請は、「遺言書作成→法務局で申請」という流れ
- 遺言書そのものの内容については司法書士に相談した方がよい
自筆証書遺言書保管制度は自筆証書遺言の問題点を克服するための制度
自筆証書遺言書保管制度とは、法務局にて遺言書を保管してもらうことができる制度のことです。信頼できる国の機関に保管を任せることができるので、以下のような自筆証言遺言のリスクを克服することができます。
ただし自筆証言遺言は、遺言者が全文・日付・氏名を自書し、押印することによってできる遺言書で、手軽に作ることはできても、次のような問題点があります。
相続人によって遺言書が破棄・隠匿・改ざんされてしまうかもしれない
封印等が施されていない自筆証書遺言は、破棄・隠匿・改ざんのリスクを避けられません。ある相続人にとって好ましくないような内容が書かれていた場合は、都合のいいように改ざんされてしまうこともありますので、遺言書作成後の保管にはくれぐれも注意が必要です。
遺言書そのものを紛失してしまうリスク
これまでの自筆証言遺言の制度では、作成した自筆証書遺言は、遺言者自身で保管するか、将来の相続人や親族に預けて保管するしか方法がありませんでした。この際、問題になってしまうのが「遺言者自身で自筆証書遺言を保管していたところ、遺言者の死後も相続人によって発見されない」というケースです。
遺言書の通りの財産承継とならないほか、相続人間で円満に遺産分割協議が終わってしまってから遺言書が発見されてしまっては、もはや相続トラブルの種でしかありませんでした。
自筆証書遺言書保管制度のメリット
上記のようなリスクを克服し、自筆証書遺言をより利用しやすいものとしようという考え方から始まったのが、自筆証書遺言書保管制度です。
次のようなメリット・特徴があります。
遺言書の紛失・隠匿・改ざんを防げる
自筆証書遺言書保管制度を利用した場合、法務局において遺言書が保管されます。
この自筆証書遺言は原本であるため、第三者による遺言書の変造・改ざんを防ぐことができます。
もちろん遺言書を紛失したり、相続人などによって遺言書が破棄・隠匿されたりするリスクもなくなります。
遺言書があるという通知が相続人に届く
自筆証書遺言書保管制度を利用している場合でも、相続人に知られなければ、遺言書に従った相続手続きを行うことはできません。
そこでこの制度では、以下の交付請求・申請が行われた場合に、遺言書を保管している法務局から相続人などの関係者に通知が発送される仕組みになっています。
①遺言者の死亡後、関係相続人等が遺言書を閲覧や、遺言書情報証明書の交付を受けた場合
→ その他の関係相続人等に通知する
②あらかじめ遺言者が希望した場合において、遺言書保管官が遺言者の死亡の事実を確認した場合
→ 遺言者が指定した1名に対して通知が行われる
このように、自筆証書遺言書保管制度を利用することで、「遺言書の存在が知られることなく相続手続きが行われている!」といった事態を回避できるのです。
遺言の形式的要件を満たしているかチェックしてもらえる
自筆証書遺言は形式に不備があると「無効」となってしまいます。
法務局の遺言書保管所が自筆証書遺言書を預かる際、民法で定められている自筆証書遺言の形式的要件を満たしているかをチェックしてくれますので、自筆証書遺言が形式不備によって無効となるリスクを回避できます。
自筆証書遺言保管を法務局に申請する手続き
法務局に対して自筆証書遺言の保管申請を行う場合の手続きを解説します。
保管申請の手順
1.自筆証書遺言書を作成
はじめに、自筆証書遺言書の作成を行いましょう。
遺言書の内容については、意思の反映と紛争防止を果たせるものにするためにも、司法書士など専門家のアドバイスをもらうのが賢明です。
2.法務局にて保管を申請する
遺言書が完成したら、法務局へと赴き、自筆証書遺言書の保管申請を行います。
必要なものは以下の通り。
- 自筆証書遺言書
- 保管申請書
- 手数料(1通あたり3,900円)
- 住民票の写し等
- 本人確認書類1点(マイナンバーカード、運転免許証、パスポート、運転経歴証明書など)
3.保管証の受け取り
保管申請の手続きが終了すると、遺言書保管所から、保管される遺言書に関する情報が記載された保管証が交付されます。
保管証は紛失しないように、大切に保管しておきましょう。
札幌法務局の情報
札幌法務局は、札幌市にある法務省の地方支分部局であり、北海道を管轄しています。
直接の登記事務の管轄として、不動産登記は札幌市中央区、商業・法人登記は札幌市全区、石狩市、北広島市を管轄しています。
自筆証書遺言保管制度の注意点・デメリット
一見すると、自筆証書遺言保管制度の開始によって、自筆証書遺言の弱点が克服されたかのように感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、次に記載するような注意点があり、また、同じく下記記載の最も大きな問題が解決されないままとなってしまっています。
保管申請は本人が法務局で行わなければならない
自筆証書遺言書保管制度を利用する場合、必ず本人が法務局に足を運んで申請を行わなければなりません。これは、遺言者本人に出頭してもらい、法務局の担当者が本人確認を実施するためです。
そのため、足が不自由な方や、病院で寝たきりで動けない方で、法務局に出向くことができない方は、遺言書保管制度を利用することができません。
遺言書の内容まではチェックしてもらえない
法務局では、遺言書の形式的要件はチェックしてくれるものの、遺言の内容についてはチェックしてくれません。
一時期、自筆証書遺言の作成が流行したことで、現在では形式的要件を満たしていない遺言書はほとんど存在しなくなりました。他方、今でも問題となっているのが、「遺言書の内容」の不備です。
- 遺言が紛争を予防できる内容になっているか
- 財産は漏れなく記載されているか
- 財産の特定が曖昧だったり、文意が不明確な内容となっていないか
などの内容について、本来であれば最も力を注いでチェックを行いたいところなのですが、残念ながら現行の自筆証書遺言書保管制度では、法務局の担当者は、そこまでのチェックを行ってくれません。
せっかく作成し、保管していた遺言書が、実際に使用する場面では機能しない…などということも、将来、起こり得るのではないかと懸念されます。
可能な限り、将来の相続手続きの際に問題が起こらない遺言書を作成しようとするならば、専門家に相談しながら作成していくことは必須であると、お考え頂いたほうがよいのかもしれません。
自筆証書遺言のチェックは司法書士に相談しよう!
札幌大通遺言相続センターは、北海道内でも高い相談実績を誇る、遺言・相続・民事信託/家族信託のプロ集団です。
「遺言書の内容を専門家と相談して決めたい」
「遺言書を安全に保管するためにも、アドバイスが欲しい」
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といったご不安・お悩みをお抱えの方は、ぜひ一度、お気軽に当センターにご相談ください。
ご相談・ご依頼は、事務所面談・メール・ビデオ通話で柔軟に対応可能です。
初回相談は無料!
まずは一度、お気軽にお問い合わせください。プロによる公平中立なアドバイスを受けることで、今後どうすればいいのか道筋を立てることができるようになります。
【司法書士・工藤からのコメント】
令和2年7月10日より、本稿記載の「自筆証書遺言書保管制度」が開始されました。
これまでのデメリットを補うような仕組みで作られており、また、遺言書を保管している旨が法務局から各相続人等に通知されるなど、これまでにはない画期的な仕組みも盛り込まれています。
しかしながら現在、自筆証書遺言に関して問題になっているのは、本人確認や形式的要件の不備ではなく、その「内容」に関するものが大多数を占めています。すなわち「財産の特定」や「受取人となる人物の特定」が曖昧であったり、「遺産全体が網羅されていない」「債務の承継先について記載されていない」といったものです。
結局これらは自筆証書遺言書保管制度によっては解決されておらず、今後、「法務局に預けたのに、どうして手続きができないのだ」といった問題が生じても不思議ではないとさえ、考えています。
どの方式による遺言書作成が最もご自身に適しているのかを冷静に検討するためにも、専門家への、事前のご相談をお勧めします。
まとめ
この記事では、新しく始まった「自筆証書遺言書保管制度」について解説しました。ポイントをまとめると次のようになります。
- 自筆証書遺言書保管制度を利用することで、遺言書の紛失・改ざんを防ぐことができる
- 保管申請は、「遺言書作成→法務局で申請」という流れ
- 遺言書の「形式」はチェックされても「内容」はチェックしてくれない
- 紛争を防ぐためにも、遺言書の内容は司法書士に相談しよう