配偶者が亡くなった後、相続手続きをしないまま何年も過ぎてしまった。そのままでも日常生活に支障がなかったため、つい先延ばしにしてしまった。こうしたケースは決して珍しくありません。しかし、手続きを放置している間にも時間は流れ、当初の相続人が亡くなれば、その相続人の相続権はさらにその家族へと移っていきます。気づいたときには相続人が膨大な人数に膨れ上がり、誰が相続人なのかすら把握できない状態に陥ることがあります。本記事では、夫の死亡から10年間相続手続きを放置した結果、相続人が15名にまで増加したケースにおいて、全員との連絡・合意形成を経て自宅の相続登記と売却を実現した事例をご紹介します。
10年間の放置で相続関係が複雑化した経緯
ご相談者は、10年前に亡くなったご主人の妻でした。ご夫婦にはお子様がおらず、夫の死亡時点での相続人は妻と夫の兄弟4名の合計5名でした。当時、自宅にそのまま住み続けていたため、名義変更の必要性を強く感じることがなく、相続手続きは行われないままとなっていました。
しかし、10年の間に夫の兄弟も次々と亡くなりました。兄弟が死亡すると、その相続権は兄弟の配偶者や子(被相続人から見て甥姪)へと承継されます。これを数次相続といい、相続手続きが未了のまま相続人が死亡することで、新たな相続が重なっていく現象です。結果として、ご相談時点では誰が相続人であるのかをご相談者自身がまったく把握できない状況となっていました。
ご相談者は高齢となり、自宅からマンションへの転居を検討されていました。自宅を売却するためには不動産の名義を相続人に変更する必要がありますが、そのためには相続人全員による遺産分割協議が不可欠です。相続人が誰なのか分からない、連絡先も分からないという状態から手続きを始めなければならず、当事務所にご相談いただきました。
相続人15名の確定と全員への連絡
膨大な戸籍収集による相続人の確定作業
行政書士が戸籍収集を行いました。子のいない方の相続では、被相続人の出生から死亡までの戸籍に加え、両親の出生から死亡までの戸籍、さらに兄弟姉妹の戸籍が必要となります。本件ではそれに加えて、10年の間に亡くなった兄弟4名それぞれについても出生から死亡までの戸籍を収集し、その配偶者や子の戸籍まで追跡する必要がありました。数次相続が複数重なっているため、収集すべき戸籍の範囲は通常の相続とは比較にならない広さとなりました。
戸籍の読み解きを進めた結果、現時点での相続人は甥姪、亡くなった兄弟の配偶者などを含む合計15名であることが確定しました。
15名の中にはご相談者がまったく面識のない方も含まれており、全員の現住所を把握するために戸籍附票を取得して住所調査を行っています。
手紙による連絡と遺産分割協議の成立
住所が判明した相続人全員に対し、ご相談者の名前で手紙を送付していただきました。
相続人15名全員と連絡がつき、不動産を妻が取得する内容で遺産分割協議が成立しました。自宅の土地建物を妻が取得する内容で全員の合意を得ています。
遺産分割協議書は、15名全員に個別の書面を作成し、それぞれ郵送にて署名捺印のやり取りを行いました。相続人が全国各地に散在しており、一堂に会することが現実的ではなかったため、個別対応による進行が不可欠でした。行政書士が15名分の協議書作成と郵送管理を一括して行い、司法書士が相続登記を申請することで、妻名義への登記変更が完了しました。
手続き完了後の状況と相続手続きの放置がもたらすリスク
相続登記が完了し、自宅の土地建物がご相談者の単独名義となりました。これにより、マンションへの転居に向けた自宅の売却を進められる状態となりました。
本件は、相続手続きの放置がいかに深刻な事態を招くかを示す典型的な事例です。夫の死亡時点では相続人は5名でしたが、10年間放置した結果、相続人は15名にまで増加しました。相続人の数が増えれば、それだけ全員の所在調査、連絡、合意形成にかかる労力と時間は膨大になります。今回は全員と連絡がつき協議が成立しましたが、相続人の中に連絡が取れない方や協議に応じない方が一人でもいれば、家庭裁判所での調停や審判に移行せざるを得ず、解決までに数年を要する可能性もありました。
なお、令和6年4月1日から相続登記が義務化されており、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記申請を行わなければ、正当な理由がない限り10万円以下の過料が科される場合があります。過去に相続が発生して未登記のまま放置されている不動産についても、この義務化の対象となります。
相続手続きは、先延ばしにすればするほど複雑化し、費用も時間も増大します。配偶者やご家族が亡くなった際は、できる限り早い段階で当事務所にご相談ください。


