「夫が亡くなったあと、銀行口座からお金を引き出そうとしたら凍結されていた。」
このようなご相談は少なくありません。葬儀費用や当面の生活費がかかる時期であるにもかかわらず、金融機関は名義人の死亡を把握すると、不正な引き出しを防ぐため速やかに口座を凍結します。
もっとも、口座が凍結されたからといって、口座の残高が失われるわけではありません。必要書類をそろえ、相続手続きとして解約の手続きを進めれば、口座の残高の払戻を受けることは可能です。
本記事では、亡くなられたご主人名義の北洋銀行・北海道銀行・ゆうちょ銀行の3行の口座について、行政書士が相続手続きにより解約・払戻しを進めた事例をご紹介します。口座凍結後に何が問題になるのか、複数の金融機関がある場合にどのように手続きを進めると負担を抑えやすいのか、実務上のポイントもあわせて解説します。
ご相談の背景と口座凍結後に生じる問題
ご相談者は、先週ご主人を亡くされた奥様でした。ご家庭の生活費は主にご主人名義の銀行口座から支出されており、葬儀費用についても、まずは奥様が立て替えて支払われていました。
その後、生活費の確保のためにご主人名義の口座から出金しようとしたところ、すでに口座が凍結され利用できない状態になっていることが判明しました。金融機関に確認したところ、凍結を解除するには相続人全員の実印による署名捺印が揃った書類を提出し、口座を解約する手続きが必要であるとの説明を受けました。対象となった口座は、北洋銀行、北海道銀行、ゆうちょ銀行の3行で、相続人は、奥様、ご長女、ご長男の3名でした。
このようなケースで問題になりやすいのは、複数の金融機関ごとに必要書類や書式が異なることです。また、今回は長男が出張の多いお仕事をされており、何度も署名捺印の機会を設けることが難しい状況でした。複数の金融機関に対してそれぞれ異なる書式の書類を用意し、その都度署名捺印を求めるとなると、長男への負担が大きくなり、手続き全体が長期化するおそれがありました。
手続きを進めるうえでの課題と方針
本件で重要だったのは、単に3行の手続きを進めることではなく、相続人全員の負担をできるだけ抑えながら、必要書類を整理して効率よく進めることでした。
こうした状況を踏まえ、行政書士として次の2点を基本方針としました。第一に、相続人全員の署名捺印の回数を最小限に抑えること。第二に、3行すべての手続きを並行して効率的に進めることです。
具体的な手続きの進め方
方針が決まった後、当事務所では以下の手順で手続きを進めました。
まず、相続人の確定作業として、ご主人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、改製原戸籍を取得しました。これにより、法定相続人が奥様、ご長男、ご長女の3名であることを公的書類で証明します。相続人の確定は銀行口座の解約手続きの前提となる最も重要な作業であり、戸籍の取得漏れがあれば手続きがやり直しになってしまいます。
次に、ご主人名義の銀行口座の調査として、各金融機関に対して残高証明書を請求し、ご主人名義の銀行口座の情報を特定しました。
これらの準備が整った段階で、ご主人名義の銀行口座の残高の分け方について相続人全員で話し合っていただきました。その内容をもとに、行政書士にて遺産分割協議書を作成しました。
ここで重要なのは、3行の口座すべてに対応できる遺産分割協議書を設計した点です。金融機関ごとに個別の書類を作成して別々に調印を求めるのではなく、一通の遺産分割協議書で3行すべてをカバーできるよう、預貯金の分割方法や手続き権限を明確に記載しました。
この設計により、相続人3名にはそれぞれ1回の署名捺印で済むようご案内することができました。とりわけ多忙な長男には、書類一式を郵送し、実印での署名捺印と印鑑証明書の同封をお願いする形で対応しました。長男の署名捺印は1回で完了しています。
調印済みの遺産分割協議書、戸籍謄本一式、印鑑証明書などの必要書類が揃った段階で、3行に対して銀行口座の解約の申請を行いました。各金融機関の所定の届出書への記入・提出も行政書士が代行し、ご遺族の窓口訪問の回数を可能な限り削減しました。
解決後の状況と早めに動くことの大切さ
3行すべての銀行口座の解約が完了し、遺産分割協議書に基づいた預貯金の分配が実現しました。奥様の手元に必要な資金が届くまでの期間を大幅に短縮でき、生活資金の不安を早期に解消することができました。
口座凍結後の銀行口座の解約手続きで大切なのは、まず、早めに着手することです。戸籍の収集は、本籍地の移転があると複数の市区町村に請求する必要があり、現在は直系尊属に限り戸籍の広域交付制度もありますが、思った以上に時間がかかることがあります。また、金融機関側の事務処理にも一定の期間を要するため、早期に動き始めることが生活資金の確保につながります。
次に、相続人間の連絡体制を早い段階で整えておくことが大切です。今回のように相続人の中に多忙な方がいる場合、署名捺印の機会を最小限にまとめる工夫が不可欠です。行政書士に依頼することで、書類の設計段階からこうした配慮を組み込むことが可能になります。
ご家族を亡くされた直後は精神的にも大きな負担がかかる時期です。煩雑な相続手続きを行政書士に任せることで、ご遺族が大切な時間を穏やかに過ごせるようになります。銀行口座の凍結でお困りの際は、どうぞお気軽に当事務所までご相談ください。


